トランプ関税が今後の賃上げムードに水をさすのではと懸念が拡がっています。連合発表では、今年の春闘ベア率は、上場企業平均5.9%、中小企業5%とか。また人材確保の為、大企業では初任給30万円の報道も。円安で消費者物価が高騰し給料アップは歓迎なのですが、多くの人には別世界のことに思えるのでは。そこで二つの格差を考えてみます。
連合加盟の大企業や中小企業(世間の感覚では優良な中堅企業)と街の小企業・零細企業・個人事業所で働く人との間の賃金格差です。小さな町工場は低賃金、職場環境もあって、人手不足は大企業より深刻です。賃上げの必要性は分っていても、①下請けに価格転嫁を充分認めてくれない。②電気代・燃料費等の原価は高騰する。③苦労を知る子供はサラリーマンになり、「私の代で終りです」との話を聞くと、亡き父の苦労を申し訳なく思い出します。
次は30万円の初任給を聞いた定年間近の就職氷河期の旧後援会の人の話です。「自分達は就職難の時代で初任給が低かった。それがベースで、ベア率も低かった。自分達の前の世代はバブルで浮かれ、今の初任給30万円はけっこうだが、初任給が低くベア率も低かった私達は、退職金や年金の基準となる退職時給与が低いので、老後も恵まれないのかと心配です」と。
日経新聞では、上場企業の3月期決算はほとんどの企業が増益とか。日本は独裁制の下での統制・計画経済ではなく、自由な取引・創意工夫による民主制と市場経済の国で、以上二つの格差・給与体系の平準化は、経営者特に上場企業経営者の判断に期待しなければならず、政府の強制・介入は難しいのです。現在流通している一万円札の福沢諭吉と渋沢栄一のお二人の考えを聞いてみましょう。
欧米列強に対抗すべく、文明開化、自立自尊を説いた福沢は、「天は人の上に人を創らず、されど物ごとを知る人は貴人・富人となり云々」と新自由主義的競争結果是認の考えを述べていますが、「人の貧富は本人の智恵のみに帰す可からずして、自然の運不足に生ずる」とも述べています。日本資本主義の父と言われる渋沢は、その著「論語と算盤」のように、福沢が文明開化には否定すべしとした儒教的「徳義・情愛」が経済的な取引・意思決定にも必要と説いています。グローバルな経営の現実を考えると、経営者の目的が「利益」・「株主」であることを認めつつも、正解は福沢・渋沢の中間・中庸にあることを弁え、「有良企業」経営者には格差是正を是非お願いしたいものです。
連休の5日はお休みとし、12日からご一緒に学ばせて頂きます。
トランプ大統領の関税引上げ・一時停止との猫の目発言で、各国株式市場は乱高下。トランプ関税で悲鳴をあげるのは、輸入物価高の直撃を受ける米消費者と輸入材料を使う米製造業者です。日本の街の声には、「物価が上るのが心配」等の誤解も。物価高は米国でおこるので、所得制限なしに国民に5万円給付等の与野党の声は人気気取りの見当違いで、トランプ対策は輸出が減る業種特に中小企業に行うべきです。石破さんにはトランプ御希望の円高(ドル安)誘導を材料に、ディルする胆力を期待です(参考3月31日の投稿)。
米国は1620年の英清教徒の移住に始まったとされているが、16世紀に既にスペイン、仏等の植民地であり、千万人超の原住民インディアンが住み、その後の移民、奴隷として売られた人、労働力として入国した人等からなる人工国家です。民族により生き方、考え方が異なるので、一つの民族の伝統的規範ではなく、法の支配、競争重視の国です。対英独立戦争を主導した東部13の英植民地を中心に、米合衆国は1787年に建国。法の支配即ち世界初の成文憲法に合意し、13の州は1つの国となります。この憲法作成過程を見ると、トランプ大統領的行政権行使手法への制御につき、現在の民主制の国では当然視されている三権分立の在り方が種々議論されています。
①13州の立場の公平性(人口比が対等か)が争われます。議会を二院制とし、上院は人口比でなく各州平等に議員は2名、下院は各州から人口比で選ぶ議員で構成となります。上院は政府人事、外交に権限を持ち、下院は税と予算の優先審議権を持つ現制度です。②行政権の責任者、元首となる大統領を議会が選ぶか、州が選ぶか、直接国民が選ぶか。州ごとの国民投票を代議員に託し、代議員の形式的投票で大統領を選ぶ現制度もこの時の合意です。③大統領や議会が憲法に違反する行為・決定をした場合、これを無効とする最高裁判事を任命するのは大統領か議会か。判事は任期制か終身制か。結局大統領任命制となるのですが、任命者への忖度を避ける終身制にしたのが、大統領、上下院、最高裁をトランプ一色に染め、歯止めが弱くなった遠因のように思います。
独裁国でなく民主制の国では、法律や議会から与えられた行政権を、その職にある者が抑制的・謙虚に行使しないと、民主制独裁に陥ります。その歯止めは主権者の良識(選挙)なので、今後の動向は、国民の声と2年後の中間選挙を控えた共和党議員の心理に懸かっているようです。
米国旅行から戻った方が、「不平不満があっても、米国でインフルに罹って、日本は有難い国だと思った」、「旅行保険に入っていて助かった」と話していました。米国は医療費(医師の収入・薬品代)が高い以上に、日本には誇るべき皆保険制度があります。支払った保険料の多寡に関わらず、日本では同じ病気には同じ治療が保険制度上保障されているのです。
米国では人はそれぞれ民間保険に加入します。加入促進を援助する仕組(オバマケア)はありますが、提供される医療は支払保険料でカバーされるので、医療の質が違うのに旅行者は驚かれたのでしょう。日本では更に皆保険制度を補強する為、㋑掛った医療費の一定割合(3割以下)を所得に応じて負担する額が高額になると、公費でそれを肩替わりする高額療養費制度、㋺高齢者の保険料や自己負担額を緩和する高齢者医療保険制度があります。
この制度を維持・機能させるには、だれかがその費用を負担せねばなりません。医療に加え年金・介護の三つの社会保障の負担構成を見てみましょう。(令和6年度・予算ベース)
◎年金給付62兆円=保険料47兆円+税金15兆円
◎医療給付49兆円=保険料25兆円+税金18兆円+自己負担6兆円
◎介護給付14兆円=保険料6兆円+税金7兆円+自己負担1兆円
私達の社会保障サービスは、支払保険料と自己負担だけでなく、国と地方自治団体の公費(国税又は地方税)で支えられています。自分の保険料や税負担以上に給付を受ける人がいる一方、医療や介護サービスを受けない健康で幸せな人もいます。しかし今後高齢化が更に進めば、年金受給者や医療・介護が必要な人は増えます。計算上は給付の額や質を抑えるか、保険料か公費か自己負担を増やさねば、計算上左右のバランスが崩れます。
予算修正協議の中で、立憲は高額療養費制度の負担上限引上げの政府案凍結を主張し、維新は保険料引下げの提案です。二つともに投票者である患者・保険料納付者には歓迎すべき提案ですが、実は矛盾する主張です。立憲の主張は医療費抑制とはならず、保険料引下げとは逆方向なのです。
立憲、維新双方の提案を満足させるには、①医療費の無駄(?)の削減、②公費(税金・赤字国債)の増加しかないのは当然でしょう。しかし先週も述べたように「無駄」は人や政党の立場や理念で違ってきます。公費部分を増すには、既定予算のどこかを削減するか、新たな負担を見つけるかです。加算減算の主張は、全ての政党が責任を分担し、耳障りの良くないことも責任を分担し議論しなければ、社会保障制度そのものが崩壊する時がきています。
4月からの新年度予算案は、高校無償化等の予算修正合意が整った維新の賛成で衆議院を通過し、年度内に成立のようです。4月から地方自治体等への予算配分が可能となり、国民生活への支障は避けられそうです。予算案は政権与党の政策の金銭表示なので、不成立は内閣不信任、遅延は内閣の不手際という政治的意味を持つ為、少数与党は賛成取り付けに懸命でした。
議長を経験した私は、この事態は一方で、国会が本来の機能、権威を取り戻せるとの期待もしていました。従来の予算審議は野党の一方的批判、与党の多数による原案採決の通過儀礼との批判を免れないものでした。批判の回避には、①与野党共に異なる意見に耳を傾ける謙虚な姿勢、②政権維持の為と後世の指弾を受けぬ与党の筋の通った協議、③野党による自分達の考える無駄の指摘、その財源を使った自分達の政策提示で、それを欠いては集票を意識した目先の人気取りの提案合戦に陥ります。
「公平」や「無駄」とは何かは、個々人の立場や価値観で違います。「防衛費は無駄で福祉予算こそ大切」との考えもあれば、日本の安全保障環境を考えれば「憲法の範囲内で防衛費は増額を」との主張も。「高所得者や法人課税の強化が公平」の一方で、「自助・努力・創意工夫への課税は不公平」で社会の活力・発展を阻害するとの反対論も。だからこそ理念の違う政党があり、民主制の国では投票と多数決で国や自治体の運営方針が決ります。与党案に対する自党の考える無駄を示し、自党の考える公平な施策を示してこそ国民には政策の違いを理解してもらえるのです。維新と合意した高校無償化も7年度の財源は単発で準備できても、8年以降の目途はたっておらず、赤字国債(高校生が納税者になった時の負担)にならぬように願っています。政党の理念による負担の違い、施策の財源を示さぬ姿勢では本当の政策論争にはならないのです。
経済が順調なら毎年度税収は増えますが、毎年度義務的支出もまた増えます。平成7年度の税収見込みは78兆円、増収は約9兆円。地方自治体の行政サービスへの交付金増1.3兆円、過去の行政サービスを借金に頼った国債の利払い等の増1.2兆円、高齢人口増に伴なう基礎年金給付の1/2負担増等0.6兆円、防衛費増0.8兆円等々。不確定な自然増収は制度として決っている支出増の財源となるので、新たな減税や無償化の主張には永続する安定財源(予算の削減か負担増)が必要で、その議論を欠く修正劇は残念に思いました。
石破トランプの日米首脳会談では、トランプ流の主張・要求等はなく、多くの受け止めは、新体制の日米関係は「無難なスタート」との評価です。だが今回の会談は30分強、陪席者もあり、ほとんどがメディア公開で、お互いの国内向けアピールの狙いも。それだけに、事前の事務摺合せ内容が気になります。安全保障や経済面で、鉄鋼や自動車等への追加関税のように今後何をしてくるのか、とりあえずの安心は禁物で、日本側の対応準備は不可欠です。
安全保障面では、①日本は重要な同盟国、②同盟国の安全は米国の抑止力行使で護る、③尖閣諸島は米国の防衛義務を定めた安保条約5条の対象を確認し、防衛費負担増の要求はなかったとか。日米同盟がインド太平洋の米権益にとっても不可欠と米側も理解しているのなら、防衛協力等の更なる要求に対し、日本の立場の主張は大切です。中口主導のブリックス参加へのアジア地域の国々の引止めへの日本の存在価値を自信を持って主張すべきでしょう。
経済面では、対日貿易赤字(848億ドル)解消の要求がありました。昨年の米国の貿易収支赤字は12,000億ドル強(185兆円)で、対日赤字は7番目とか。赤字削減の為、アラスカ等の天然ガス(LPG)輸入増で合意したようです。同盟国からの安定供給の保障、輸送ルートの安全等のメリットもあり、価格次第では日本の国益にもかないます。ただ世界有数の産油国の米国は、これまで国内資源温存の戦略をとってきたので、資源小国日本はトランプ後も見据え、長期的安定供給のシナリオは大切にしなければなりません。
戦後復興・高度成長期を通じ日本の競争力・生産性が向上すると、日米間の貿易摩擦と基軸通貨米ドルの為替レートの扱いは、日米間の紛争の対象でした。安全保障面の対米依存もあって、日本は①繊維や自動車の輸出自主規制、② 牛肉等の米国農産物の輸入拡大、③固定相場時代の対ドルレート切上げや変動相場(現在の市場主導)への移行等の譲歩を重ねてきました。日本の経済力が相対的に優位・余裕があったからこそ、それが可能だったとも言えます。
貿易赤字解消は輸入抑制か輸出増が必要。関税は輸入価格の上昇、割高な米国内製品の購入となり米国民に利益がないうえ、輸出増には効果のない対処療法です。本来は現在1ドル150円の米ドルレートを米国の利下げ・日本の利上げでドル安に誘すれば、輸出増・輸入減が可能となります。日本の輸入物価は下る一方で、円高でも競争力ある日本経済の再生は、私達の意識改革にあるとの1月14日、20日の初夢投稿をもう一度お読み下さい。
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