コラム

週刊いぶき

トランプ関税が今後の賃上げムードに水をさすのではと懸念が拡がっています。連合発表では、今年の春闘ベア率は、上場企業平均5.9%、中小企業5%とか。また人材確保の為、大企業では初任給30万円の報道も。円安で消費者物価が高騰し給料アップは歓迎なのですが、多くの人には別世界のことに思えるのでは。そこで二つの格差を考えてみます。
連合加盟の大企業や中小企業(世間の感覚では優良な中堅企業)と街の小企業・零細企業・個人事業所で働く人との間の賃金格差です。小さな町工場は低賃金、職場環境もあって、人手不足は大企業より深刻です。賃上げの必要性は分っていても、①下請けに価格転嫁を充分認めてくれない。②電気代・燃料費等の原価は高騰する。③苦労を知る子供はサラリーマンになり、「私の代で終りです」との話を聞くと、亡き父の苦労を申し訳なく思い出します。
次は30万円の初任給を聞いた定年間近の就職氷河期の旧後援会の人の話です。「自分達は就職難の時代で初任給が低かった。それがベースで、ベア率も低かった。自分達の前の世代はバブルで浮かれ、今の初任給30万円はけっこうだが、初任給が低くベア率も低かった私達は、退職金や年金の基準となる退職時給与が低いので、老後も恵まれないのかと心配です」と。
日経新聞では、上場企業の3月期決算はほとんどの企業が増益とか。日本は独裁制の下での統制・計画経済ではなく、自由な取引・創意工夫による民主制と市場経済の国で、以上二つの格差・給与体系の平準化は、経営者特に上場企業経営者の判断に期待しなければならず、政府の強制・介入は難しいのです。現在流通している一万円札の福沢諭吉と渋沢栄一のお二人の考えを聞いてみましょう。
欧米列強に対抗すべく、文明開化、自立自尊を説いた福沢は、「天は人の上に人を創らず、されど物ごとを知る人は貴人・富人となり云々」と新自由主義的競争結果是認の考えを述べていますが、「人の貧富は本人の智恵のみに帰す可からずして、自然の運不足に生ずる」とも述べています。日本資本主義の父と言われる渋沢は、その著「論語と算盤」のように、福沢が文明開化には否定すべしとした儒教的「徳義・情愛」が経済的な取引・意思決定にも必要と説いています。グローバルな経営の現実を考えると、経営者の目的が「利益」・「株主」であることを認めつつも、正解は福沢・渋沢の中間・中庸にあることを弁え、「有良企業」経営者には格差是正を是非お願いしたいものです。
連休の5日はお休みとし、12日からご一緒に学ばせて頂きます。

 7月の参議院選挙を控え、延長の難しい国会の会期末まで約2ヵ月。そんななか、補正予算や法改正が必要な給付金(一人5万円?)や減税を求める発言が与野党の一部から相次いでいます。理由はトランプ関税による経済不安、物価高への対応とか。少数与党の苦しさ故か、石破さんもこの風を感じ、「ご意見を大切に」、「やるべきでない」が「検討は必要」とか気を持たせる答弁です。石破さんには風を読みつつ、風に流されぬ勇気を期待します。
 トランプ猫の目関税で、日本には自動車・鉄鋼等の25%関税は残りますが、一律24%が当面10%となり株式市場が落着くと、「トランプ関税対応」が「物価高対策」の為に必要と変ってきます。この欄でも指摘してきたように、トランプ関税で最も困るのは、関税上乗せで消費者物価高に苦しむ米国消費者と輸入原材料を使う米国製造業者です。その結果としての米国経済の先行き不安から、①ニューヨーク株式市場、②米国債価格、③ドルレートはトリプル安。為替は1ドル160円だったのが今では140円のドル安(円高)です。
 日本の輸入品価格は円建てで20円、約12%程度安くなります。逆に米国の日本からの輸入品は、10%の関税と12%のドル安で計22%の高騰です。エネルギーや食糧品等を円安を理由に値上げした企業は、円高ドル安が進み今後は逆に値下げ環境が出来たとも言えます。石破さんには①値下げを促し、②賃上げ継続を要請することが最大の物価対策だと理解してほしいものです。給付金等に使う財源があるなら、トランプ関税で輸出が難しくなる業種、特に下請けや関連中小企業の支援、生産性向上(競争力強化)に予算を集中する方が、将来の日本経済の体質強化にもつながるでしょう。
 先人の言葉に「政治屋は次の選挙を考え、政治家は次の時代を考える」とあります。選挙が近づくと何等かの名目で、次の世代の有権者の負担(赤字国債)で、現在の有権者の関心(票)を得ようとする動きが出てきます。しかし賢明な多くの国民は、減税で消費は増えるのか、給付金は消費より貯蓄に回るとの過去の実績がある等を御存知なので、一見有難くみえる話で投票するとみなされることに愉快な気持を持たれないのではと思います。
 報道によれば、枝野幸男元立憲民主党代表が、給付金や減税を安易に唱える政界の風潮に警鐘を鳴らし、票目当てのポピュリズムを戒めた由。現役政治家の皆さんにも、風に流されぬ勇気を持つ人が健在なのを頼もしく思いました。

トランプ大統領の関税引上げ・一時停止との猫の目発言で、各国株式市場は乱高下。トランプ関税で悲鳴をあげるのは、輸入物価高の直撃を受ける米消費者と輸入材料を使う米製造業者です。日本の街の声には、「物価が上るのが心配」等の誤解も。物価高は米国でおこるので、所得制限なしに国民に5万円給付等の与野党の声は人気気取りの見当違いで、トランプ対策は輸出が減る業種特に中小企業に行うべきです。石破さんにはトランプ御希望の円高(ドル安)誘導を材料に、ディルする胆力を期待です(参考3月31日の投稿)。
 米国は1620年の英清教徒の移住に始まったとされているが、16世紀に既にスペイン、仏等の植民地であり、千万人超の原住民インディアンが住み、その後の移民、奴隷として売られた人、労働力として入国した人等からなる人工国家です。民族により生き方、考え方が異なるので、一つの民族の伝統的規範ではなく、法の支配、競争重視の国です。対英独立戦争を主導した東部13の英植民地を中心に、米合衆国は1787年に建国。法の支配即ち世界初の成文憲法に合意し、13の州は1つの国となります。この憲法作成過程を見ると、トランプ大統領的行政権行使手法への制御につき、現在の民主制の国では当然視されている三権分立の在り方が種々議論されています。
①13州の立場の公平性(人口比が対等か)が争われます。議会を二院制とし、上院は人口比でなく各州平等に議員は2名、下院は各州から人口比で選ぶ議員で構成となります。上院は政府人事、外交に権限を持ち、下院は税と予算の優先審議権を持つ現制度です。②行政権の責任者、元首となる大統領を議会が選ぶか、州が選ぶか、直接国民が選ぶか。州ごとの国民投票を代議員に託し、代議員の形式的投票で大統領を選ぶ現制度もこの時の合意です。③大統領や議会が憲法に違反する行為・決定をした場合、これを無効とする最高裁判事を任命するのは大統領か議会か。判事は任期制か終身制か。結局大統領任命制となるのですが、任命者への忖度を避ける終身制にしたのが、大統領、上下院、最高裁をトランプ一色に染め、歯止めが弱くなった遠因のように思います。
独裁国でなく民主制の国では、法律や議会から与えられた行政権を、その職にある者が抑制的・謙虚に行使しないと、民主制独裁に陥ります。その歯止めは主権者の良識(選挙)なので、今後の動向は、国民の声と2年後の中間選挙を控えた共和党議員の心理に懸かっているようです。

自民党の初当選議員と会食をした際、石破さんが商品券10万円を贈ったのが政治資金規正法違反だ、違反でなくても国民感情と乖離している等々、メディアやSNSを賑わしています。ラインでは多数の批判と一部の擁護が。私の初当選は中選挙区時代で、政治資金規正法改正前のバブル時代でした。当時の中曾根康弘総理にお祝いの会をしてもらった記憶はありませんが、多くの先輩からお招きを受けおみやげを頂いたのを覚えています。先輩に感謝こそすれ、他人に話すこと等ありえませんでした。また、お祝いの会もしない先輩は、気配りのない先生というのが当時の政界(与野党を通じ)の評価でした。
 その後、金権政治・派閥を生む中選挙区制度を変えるべしとの世論のなか、1人当選の小選挙区制、企業団体献金制限の現制度に移行して約30年です。初当選時のオオラカな雰囲気、別の見方ではルーズさは、少しずつ無くなりました。風(社会の風潮)が変ったのです。政治を担う上で大切なのは、地位に与えられる権力行使に謙虚、抑制的であることに加え、「風を読む力」と「風に流され大切なものを失なわぬ勇気」でしょうか。石破さんの今回の失敗は、①派閥パーティーとウラガネへの「逆風」を自民党総裁として読めなかったこと、②逆風のなかで初当選した議員心情、「風」を理解できなかったことです。
 一方で心配なのは、「風に流され大切なものを失なわない勇気」を失なうことです。派閥とカネへの批判に応えようとして、自民党は麻生派以外の派閥は解散しました。派閥への直接の批判は、派閥パーティーを利用した所謂ウラガネ問題です。だが本質的批判は、派閥により党の政策や人事(総裁選挙)が左右され、自派閥の影響力を強める為、派閥の拡大を図る結果として、派閥会員への選挙や日常活動の為の資金集めに無理が生ずることです。しかし他方派閥は、①政策の勉強、②経験の浅い議員への立居振舞い(有権者・先輩同僚・他党の議員に対する)、③初当選者のねぎらいの会等を通じの人間関係を教え、深める等の役割りを果してきました。
 派閥解散の現在、大講堂での講義でなく何故少人数のゼミがあるかを考えるまでもなく、①②③や300人を超える議員の公平な人事管理をどうするのか、自民党もその一翼を担う日本政治の将来の為いささか心配になります。少数与党であっても石破さんには、国会運営・各党接衝・党運営において、風を読み、風に流されぬ勇気を期待したいと思います。
トランプ政権が関税引上げに動いています。鉄鋼やアルミニウムに25%、自動車にも25%とか。対米投資を理由に日本は例外扱いを求めていますが、あまり下手に出るのもどうでしょう。2月3日に本欄で指摘した「石破トランプ会談が無事終っても、安全保障や貿易赤字で何を言ってくるか」が、やはり現実になりました。しかし例えば鉄鋼は、日本しか持っていない技術の製品輸出なので、輸入加工している米国業界からいずれ悲鳴が上るでしょう。
関税を始めとするトランプ流の経済政策は、全体の斉合性がないように思います。「政策の途中経過には答えたくない」としたトランプ発言に、株価下落で反応したニューヨーク市場がその証明です。①輸入品価格上昇の結果、米国民は高い輸入品か費用対効果の悪い国内製品を選ばねばなりません。②賃上げで不満を抑えようとすると、企業業績は悪化します。③所得減税を恒久化する公約は、自然増収や関税収入の著増がないと連邦予算赤字は更に増えます。
更にトランプ大統領は「中国や日本は自国通貨安を誘導し、対米輸出を容易にした」とも発言。中国元はともなく、円安の結果輸入品の円表示高(消費者物価高騰)に苦しむ日本は、ドル安円高の為替介入まで実施しているので事実課認なのですが、問題解決の鍵が実はここにありそうです。
固定相場制なら通貨交渉で、スミソニアン合意のようにドル安レートを人為的に設定できますが、現在は市場が為替相場を決める変動相場制です。米国の金利引下げを条件に、日本が現在考えている公定歩合の引き上げを日米協調して行えば、利回り改善の円買いの結果トランプ大統領の希望するドル安・米国の輸出増、関税と同様の輸入減の条件が生じます。これを提案し、関税の例外扱いのディルを日本から仕掛ける気概を石破内閣に持ってほしいものです。
問題は円安の方が輸出に有利、海外からの送金の連結決算の円表示利益が大きくなるとの経営者のぬるま湯マインドでしょうか。10年前は1ドル100円でしたが日本の経常収支は黒字でした。円安は日本人の労働力と技術の150円分を1ドルで買われていることを意味し、円高なら150円分を1ドル50セントで売れるのです。円高なら1ドル分を100円で買え、円安なら150円の支払いです。1ドル100円でも輸出ができるだけの競争力・生産性の回復こそ日本が急がねばならぬことで、円安への安住より公益と活力の視点を取り戻すことを経営者・国民にお願いしたいと思います。
お彼岸に両親や祖先の墓参りをしました。墓苑内は舗装されておらず、雨でぬかるんだ泥が靴に残ります。子供の頃当り前だったぬかるみと共に、戦中・戦後の困難な時代に苦労して育ててくれた父母のことが、感謝と共に思い出されました。
      春泥も  なぜか嬉しき  墓参り
白い御飯一杯が夢に出て来た戦中と戦後の一時期まで、生家の前の道路脇には食糧の足しにと細々とさつま芋が植えられていました。道路の側溝に生活排水が流れ、蚊が舞い鼠がチョロチョロしていました。戦後復興が高度経済成長に移る60年前頃から、日本は劇的に変ります。公団住宅、電化製品、マイカー。そして今では当たり前で時には不充分と不満の対象になる、皆年金、皆保険、介護保険制度が導入されます。新幹線や高速道路が出来る頃には、道路は舗装され、下水道整備と共に側溝もぬかるみも姿を消しました。
私達の日常も助け合わねば生きていけなかった時代から、一人でも生きていける時代へと変ります。素晴しいことである一方、家族・地域社会、勤務先等への帰属意識は薄れ、自分の価値観、自己主張を最優先にできる時代にもなります。現在議論されている結婚後も旧姓を維持する選択的夫婦別姓の主張も、この流れのなかにあるのでしょうか。価値観の問題なので、異なる意見・主張を居丈高に批判するのはでなく、冷静な話合い・協議が必要でしょう。
民法や戸籍法では、結婚に伴ない夫婦はどちらかの姓を選択するのが現制度です。結婚前に積み上げた実績を改姓で失なう不利益があるなら、不利益解消の努力と①なお何が足りないのかを詰めるべきです。戸籍法に従うと自己の存在が失なわれるとの主張なら、②同一戸籍で別姓なのか、戸籍まで別との主張かを整理すべきです。③夫婦は姓の選択が可能でも、どちらの姓を選ぶかの子供の権利はどうなるのか等々も配慮が必要です。
特に②で戸籍まで別との主張は、法的婚姻以外の男女関係との区分が難しく、相続・税務・社会保障等の前提になっている現在の考え方が適用できないように思えます。選択的夫婦別姓の議論は憲法13条(個人の尊重)、14条(法の下の平等)と併せて、12条(公共の福祉内での権利の主張・濫用の禁止)も前提に熟議すべきでしょう。祖先や父母に感謝し、○○家の墓に詣る人が50年後には何人いるのかな等と考え、墓参りから帰路につきました。
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新年早々に後藤剛さんのご示唆も頂いたので、ホームページを更新しました。http://ibuki-bunmei.org/。覗いて頂ければ幸甚です。
米上下院でのトランプ大統領演説、仏マクロン大統領の国民への演説を聴いて、第二次世界大戦前にタイムスリップしました。当時は軍事力が最大の外交交渉力で、大国は軍事力を背景に、相手国に権益(交易)を求め植民地化を進め、それが当時の世界秩序(大国中心の)でした。日本は明治維新で荒波を乗り切り大国の仲間入りすると、残された権益(中国)を巡り先行国と争い、大東亜戦争に突入。当時の文書を読むと、米国によるフィリピンの植民地化を認めるかわりに、日本の中国進出に米国が干渉しないとの合意があったとか。
今ではフィリピンは独立し、中国は中華民国を経て、中華人民共和国として米国と覇権を争う大国です。しかし大国故に軍事力の肥大化と他国の主権への干渉も増えています。侵略を受けているウクライナの将来が、ウクライナ国民の意思とは別に、軍事力を背景にした大国間の協議に委ねられるのは、フィリピンと中国を巡るかつての日米密約を思わせます。戦争被害の大きさへの反省から、終戦後に新しい世界秩序とそれを担保する安全保障・経済等の条約・協定、それを動かす国連、WTO等の国際機関が設立された現状が、かつての軍事力を背景にした新(旧?)秩序に戻るかのようです。
マクロン仏大統領は演説で、ロシアの武力侵攻が欧州に及ぶ危険に対処する為、仏の核の傘の下での欧州の団結と軍事力増強の必要性を訴えました。米国が第二次世界大戦後に果してきた、新秩序維持の為の自由・民主主義国の盟主(世界の警察官)の役割から身を退くとなれば、当然の主張でしょう。だがそのことは、米・ロ・欧州・中国の軍事力中心の秩序に戻る不安定な世界にもなりかねません。日本はさてどうするのかです。
「理想がないと存在する値打ちはないが、現実を忘れては存在できない」。太平洋の東西に位置する日米両国は、安全保障・経済両面で互恵の同盟国だと米国に分からせることが第一です。日本周辺には、中国・ロシア・北朝鮮という核を保有し、国家運営の価値が違う国があります。日本は大東亜戦争の反省、憲法の条文から軍事力を外交交渉手段とせず、安全保障面を専ら米国の核の傘と日米安保条約に頼っているのが現実です。その米国とある程度の交渉がかつて出来たのは、日本の経済力に余裕があり、外交交渉力を経済力に頼ってきたからです。その経済にかげりが見える現在、これをどう建て直すかにこそ日本の将来が懸かっています。1月14日、20日の初夢投稿を是非もう一度。

米国旅行から戻った方が、「不平不満があっても、米国でインフルに罹って、日本は有難い国だと思った」、「旅行保険に入っていて助かった」と話していました。米国は医療費(医師の収入・薬品代)が高い以上に、日本には誇るべき皆保険制度があります。支払った保険料の多寡に関わらず、日本では同じ病気には同じ治療が保険制度上保障されているのです。

 米国では人はそれぞれ民間保険に加入します。加入促進を援助する仕組(オバマケア)はありますが、提供される医療は支払保険料でカバーされるので、医療の質が違うのに旅行者は驚かれたのでしょう。日本では更に皆保険制度を補強する為、㋑掛った医療費の一定割合(3割以下)を所得に応じて負担する額が高額になると、公費でそれを肩替わりする高額療養費制度、㋺高齢者の保険料や自己負担額を緩和する高齢者医療保険制度があります。

 この制度を維持・機能させるには、だれかがその費用を負担せねばなりません。医療に加え年金・介護の三つの社会保障の負担構成を見てみましょう。(令和6年度・予算ベース)

◎年金給付62兆円=保険料47兆円+税金15兆円

◎医療給付49兆円=保険料25兆円+税金18兆円+自己負担6兆円

◎介護給付14兆円=保険料6兆円+税金7兆円+自己負担1兆円

私達の社会保障サービスは、支払保険料と自己負担だけでなく、国と地方自治団体の公費(国税又は地方税)で支えられています。自分の保険料や税負担以上に給付を受ける人がいる一方、医療や介護サービスを受けない健康で幸せな人もいます。しかし今後高齢化が更に進めば、年金受給者や医療・介護が必要な人は増えます。計算上は給付の額や質を抑えるか、保険料か公費か自己負担を増やさねば、計算上左右のバランスが崩れます。

予算修正協議の中で、立憲は高額療養費制度の負担上限引上げの政府案凍結を主張し、維新は保険料引下げの提案です。二つともに投票者である患者・保険料納付者には歓迎すべき提案ですが、実は矛盾する主張です。立憲の主張は医療費抑制とはならず、保険料引下げとは逆方向なのです。

 立憲、維新双方の提案を満足させるには、①医療費の無駄(?)の削減、②公費(税金・赤字国債)の増加しかないのは当然でしょう。しかし先週も述べたように「無駄」は人や政党の立場や理念で違ってきます。公費部分を増すには、既定予算のどこかを削減するか、新たな負担を見つけるかです。加算減算の主張は、全ての政党が責任を分担し、耳障りの良くないことも責任を分担し議論しなければ、社会保障制度そのものが崩壊する時がきています。

4月からの新年度予算案は、高校無償化等の予算修正合意が整った維新の賛成で衆議院を通過し、年度内に成立のようです。4月から地方自治体等への予算配分が可能となり、国民生活への支障は避けられそうです。予算案は政権与党の政策の金銭表示なので、不成立は内閣不信任、遅延は内閣の不手際という政治的意味を持つ為、少数与党は賛成取り付けに懸命でした。

議長を経験した私は、この事態は一方で、国会が本来の機能、権威を取り戻せるとの期待もしていました。従来の予算審議は野党の一方的批判、与党の多数による原案採決の通過儀礼との批判を免れないものでした。批判の回避には、①与野党共に異なる意見に耳を傾ける謙虚な姿勢、②政権維持の為と後世の指弾を受けぬ与党の筋の通った協議、③野党による自分達の考える無駄の指摘、その財源を使った自分達の政策提示で、それを欠いては集票を意識した目先の人気取りの提案合戦に陥ります。

「公平」や「無駄」とは何かは、個々人の立場や価値観で違います。「防衛費は無駄で福祉予算こそ大切」との考えもあれば、日本の安全保障環境を考えれば「憲法の範囲内で防衛費は増額を」との主張も。「高所得者や法人課税の強化が公平」の一方で、「自助・努力・創意工夫への課税は不公平」で社会の活力・発展を阻害するとの反対論も。だからこそ理念の違う政党があり、民主制の国では投票と多数決で国や自治体の運営方針が決ります。与党案に対する自党の考える無駄を示し、自党の考える公平な施策を示してこそ国民には政策の違いを理解してもらえるのです。維新と合意した高校無償化も7年度の財源は単発で準備できても、8年以降の目途はたっておらず、赤字国債(高校生が納税者になった時の負担)にならぬように願っています。政党の理念による負担の違い、施策の財源を示さぬ姿勢では本当の政策論争にはならないのです。

経済が順調なら毎年度税収は増えますが、毎年度義務的支出もまた増えます。平成7年度の税収見込みは78兆円、増収は約9兆円。地方自治体の行政サービスへの交付金増1.3兆円、過去の行政サービスを借金に頼った国債の利払い等の増1.2兆円、高齢人口増に伴なう基礎年金給付の1/2負担増等0.6兆円、防衛費増0.8兆円等々。不確定な自然増収は制度として決っている支出増の財源となるので、新たな減税や無償化の主張には永続する安定財源(予算の削減か負担増)が必要で、その議論を欠く修正劇は残念に思いました。

石破トランプの日米首脳会談では、トランプ流の主張・要求等はなく、多くの受け止めは、新体制の日米関係は「無難なスタート」との評価です。だが今回の会談は30分強、陪席者もあり、ほとんどがメディア公開で、お互いの国内向けアピールの狙いも。それだけに、事前の事務摺合せ内容が気になります。安全保障や経済面で、鉄鋼や自動車等への追加関税のように今後何をしてくるのか、とりあえずの安心は禁物で、日本側の対応準備は不可欠です。

安全保障面では、①日本は重要な同盟国、②同盟国の安全は米国の抑止力行使で護る、③尖閣諸島は米国の防衛義務を定めた安保条約5条の対象を確認し、防衛費負担増の要求はなかったとか。日米同盟がインド太平洋の米権益にとっても不可欠と米側も理解しているのなら、防衛協力等の更なる要求に対し、日本の立場の主張は大切です。中口主導のブリックス参加へのアジア地域の国々の引止めへの日本の存在価値を自信を持って主張すべきでしょう。

経済面では、対日貿易赤字(848億ドル)解消の要求がありました。昨年の米国の貿易収支赤字は12,000億ドル強(185兆円)で、対日赤字は7番目とか。赤字削減の為、アラスカ等の天然ガス(LPG)輸入増で合意したようです。同盟国からの安定供給の保障、輸送ルートの安全等のメリットもあり、価格次第では日本の国益にもかないます。ただ世界有数の産油国の米国は、これまで国内資源温存の戦略をとってきたので、資源小国日本はトランプ後も見据え、長期的安定供給のシナリオは大切にしなければなりません。

戦後復興・高度成長期を通じ日本の競争力・生産性が向上すると、日米間の貿易摩擦と基軸通貨米ドルの為替レートの扱いは、日米間の紛争の対象でした。安全保障面の対米依存もあって、日本は①繊維や自動車の輸出自主規制、②   牛肉等の米国農産物の輸入拡大、③固定相場時代の対ドルレート切上げや変動相場(現在の市場主導)への移行等の譲歩を重ねてきました。日本の経済力が相対的に優位・余裕があったからこそ、それが可能だったとも言えます。

貿易赤字解消は輸入抑制か輸出増が必要。関税は輸入価格の上昇、割高な米国内製品の購入となり米国民に利益がないうえ、輸出増には効果のない対処療法です。本来は現在1ドル150円の米ドルレートを米国の利下げ・日本の利上げでドル安に誘すれば、輸出増・輸入減が可能となります。日本の輸入物価は下る一方で、円高でも競争力ある日本経済の再生は、私達の意識改革にあるとの1月14日、20日の初夢投稿をもう一度お読み下さい。